FCTメディア・リテラシー研究所 Japan Media Literacy Research Institute
『なぜメディア研究か−経験・テクスト・他者』、ロジャー・シルバーストーン著、
吉見俊哉・伊藤守・土橋臣吾訳、せりか書房、2003年4月刊
メディアは私たちの経験の中心をなしており、それを研究していかなければ、私たちは私たち自身の生を理解することができない。メディアは経験を伝達し、反映し、表現しているのであり、したがってその研究は、制度、生産物、技術としてのメディアだけではなく、むしろ媒介作用のプロセスとしてのメディアについて思考するものでなければならない。また重要な事件や危機などの例外的な事態とメディアとの関係より、メディアが最も重大な作用を及ぼす、自明化した日常的なレベルを出発点とせねばならない。
本書はこのような、なぜメディアを研究するのか、またどう研究していくべきかということについて、以下の5セクション16章でまとめられている。1〜3章(経験のテクスチュア、媒介作用、テクノロジー)では上記の問題意識が述べられ、4〜6章「テクストの要求と分析の戦略」ではメディアが人々に訴えかける方法として、レトリック、ポエティック、エロティックというメディアテクストのメカニズムを分析する。7〜9章「経験の諸次元」(遊び、パフォーマンス、消費)はメディアのテクストやテクノロジーと私たちの活動との相互関係についての考察、10〜12章「行為と経験のロケーション」(住居とホーム、コミュニティ、グローブ)では行為と媒介作用の相互関係について空間という観点から論じられる。13〜16章「意味の構成」(信頼、記憶、他者、新しいメディアの政治学にむけて)では、日々の社会生活のなかで安全とアイデンティティを追求するための枠組みを用意するメディア能力について、「信頼」などの概念を用いて議論される。
最後に、日常生活におけるメディアの遍在性と中心性が所与のものとなり、その役割が際立つ今、私たちすべてにとってメディア・リテラシーが重要であり、メディアを研究する者は、自分たちが学んだ事柄を伝えていかなければならないとの提起がなされる。そしてメディアや、メディアを研究する者には「世界とそこに生きる他者がヒューマンとなる」ための責任があるとされる。
−『fctGAZETTE』No.80(2003年7月)掲載−
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