FCTメディア・リテラシー研究所 Japan Media Literacy Research Institute
『メディア・リテラシーの現在と未来』、鈴木みどり編、世界思想社、2001年刊
本書は日本のメディア・リテラシー活動をグローバルな視野で位置づけ、今後の展開を展望しようとする問題意識で編集されている。12人の執筆者と翻訳者による3部構成で、目次は次のようになっている。
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第1章 日本におけるメディア・リテラシーの展開-メディア社会のデモクラシーへ向けて 鈴木みどり/第2章 『メディアを教える』レン・マスターマン、宮崎寿子解説・抄訳/第3章 デカルト、ジュール・フェリー、CLEMIの国の「メディアについての教育」ジュヌヴィエ?ヴ・ジャッキーノ-ドローネー(仲間雄三訳)
学びの実践
第1章 ジャーナリズムとメディア・リテラシー 鈴木みどり/第2章 ジェンダーとメディアー雑誌の誌面を解読する 井上輝子/第3章 シドニー・オリンピック「南北合同行進」の伝えられ方/視られ方 阿部潔/第4章 オルタナティブ・メディアをつくる 鎌中ひとみ/第5章 参加と対話で学ぶメディア・リテラシー?生涯学習講座から 西村寿子
。展望
第1章 インターネット上で展開するメディア・リテラシー活動〜Mnet の分析から 篠塚公/第2章 メディア・リテラシー教育と新しいコンピュータ教育ニール・アンダーセン(伊藤晶子訳)/第3章 メディア・リテラシーの担い手たちとそのパートナーシップの構築〜カナダの取り組みに見る 鈴木みどり
資料編(諸文書、文献リスト、用語解説)
第1部第1章は、世界の動きと軌を一にして始まった1980年代以降の日本におけるメディア・リテラシーの展開について、市民セクター・放送事業者・放送行政の各領域の動向と合わせて時系列に整理・分析して21世紀の課題を探ろうとしている。
第2章は、メディア・リテラシーを学ぶ者にとって必読書とされているレン・マスターマンの著書『メディアを教える』の抄訳と解説である。大学の授業や市民講座で学ぶ「目標、8つの基本概念、分析モデル、学びの場の作り方」などの理論的背景となる部分であり、それを日本語で読みことができるようになった意義は大きい。
第3章は、フランスにおけるメディア・リテラシー教育の取り組みを取り上げ紹介している。フランスで中心になってきたCLEMIの理念、学校・学校外の取り組み・独立行政委員会と放送事業者の動きなど日本ではほとんど知られていない点が多く語られている。
第2部では、日本におけるさまざまな実践が多角的に取り上げられており、メディア・リテラシー研究の学際性を概観できる。第1章では、編者の大学での授業を実践例としてとりあげ、メディア・リテラシーとジャーナリズムの関係をどう学ぶか、また、理論と実践の統合のあり方を示している。第2章では雑誌を取り上げ、ジェンダーとメディアについて学ぶ分析方法を提示する。第3章はメディア・リテラシーの研究で重要な領域のひとつであるオーディアンスに焦点をあわせ、グループ・インタビューによる分析を行っており、多くの示唆に富んでいる。第4章では、フリーランスの制作者である筆者が日本型パブリック・アクセスの可能性を探ろうとしている。第5章は、市民講座の実践を踏まえて系統的な学びの場の構築と展開、参加者の学びの推移について整理・分析している。
第3部は、カナダに焦点を絞り、その経験から今後の取り組みを展望しようとしている。第1章は、インターネット上でメディア・リテラシー活動を展開する市民組織「メディア・アウエアネス・ネットワーク」(Mnet)を取り上げ、そのサイトを分析する。第2章は、カナダのメディア教師の中心的存在である筆者が、コンピューター・テクノロジーが教育に及ぼす影響とメディア・リテラシーの観点から学ぶ意味について論じている。第3章は、カナダにおけるメディア教師や市民組織(NPO)とシティテレビなどの放送事業者によるラディカルな取り組みとその中で生み出される発想豊かな新しい教材を取り上げ、それに分析を加えつつメディア・リテラシーの現在と未来を論じている。
鈴木みどり編『メディア・リテラシーの現在と未来』(世界思想社、2001年、266頁、定価2,300円)
−『fctGAZETTE』No.75(2001年11月)掲載−
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